イギリスのEU離脱がポンドに与える影響

 イギリスのEU離脱を問う国民投票の期日が6月23日と迫ってきました。最近の世論調査では、離脱派が残留派をわずかに上回っているようです。海外メディアはこの問題をイギリス:Britainと離脱:exitの英単語をもじってBrexitと呼び、連日大きく報道しています。

 第二次大戦を通じて基軸通貨の座をドルに明け渡してしまったポンドですが、今でも世界で4番目の流通量ということもあり、FXでは人気の取引通貨です。今回の問題がポンドの値動きにどのように影響を与えるのかを考えてみたいと思います。

EUの成り立ち

 過去の2度の世界大戦は欧州内での争いが発端となって起こりました。そこで、ヨーロッパを統一することで戦争の火種を無くしてしまおうという取り組みが行われることとなりました。これがEUのはじまりであり、提唱したのはイギリスのウィンストン・チャーチルでした。

 実際には、本土を爆撃された経験があるイギリスがドイツを押さえ込むための大義名分だったようですが、以外にもEUという枠組みがドイツを経済発展させる結果となります。輸出が強いドイツは万年貿易黒字であるために、通貨のマルクが高値で推移する傾向があります。経済的に強い=通貨が高いなので、輸出品の価格競争力を引き下げてしまいます。

 これが、ギリシャや東ヨーロッパ圏など経済的に弱い国々が加わることでユーロが低く抑えられることになり、ドイツの輸出競争力を高めることになりました。共通通貨であるEU域内であれば、為替に関係なく輸出を行えることも利点のひとつです。

EUにおけるイギリスの立場

 ヨーロッパを統一するためにEUが成立しましたが、イギリスは国家の主権にかかわる部分をEUに委譲していません。

 ひとつは、独自通貨であるポンドを使っていることです。中央銀行も独自にもっているので、自分たちが好きなように金融政策や財政政策を行うことができます。EU加盟国がECBにこれらを委譲しているのとは大きく異なっています。

 また、ヨーロッパの国境を廃止して自由な往来をするためのシェンゲン協定にも加盟していません。このため、EU加盟国からであってもイギリスに入国する際には入国審査が必要になります。

イギリスはなにが不満なのか

 去年の移民の増加数が33万人と過去最高を更新したことが世論調査で離脱派が優勢になった理由であるとされています。EU加盟国は移民や難民を拒否できないという決まりがあり、シリアやイラク、北アフリカからの難民だけでなく、東ヨーロッパからの移民もイギリスに流入することになりました。

 移民や難民にとってイギリスが人気であるのは、社会保障が手厚いことが理由です。これが国民の税負担を増大させており、社会保障費を圧迫することにつながっています。また、イギリス国民の労働機会も失われることも不満の原因になっています。

 これに加えて、巨額の拠出金の割りに十分な配分を受けていないとの不満もあります。ユーロ危機以降、東ヨーロッパ諸国などの貧しい国をイギリス、ドイツ、フランスなどの財政的に強い国が支えていることへの反発がイギリス国内で強く、経済的メリットが低下していると指摘されています。

 イギリスには国家にとって大事なことは自分たちで決めるべきという考えが根強くあります。経済的な発展には協力するけど、政治的な主権は守るよ、という立場です。次期首相候補にも名前が挙がる前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏をはじめとする離脱派は、「主権を取り戻す」をキーワードにキャンペーンを繰り広げています。

離脱はどのような影響を及ぼすか?

 EU域内の貿易には関税がかかっていませんが、離脱した場合にはEU加盟国との貿易で関税がかかる可能性があります。イギリスの輸出のうち44%がEU向けであり、関税がかかるだけでなく今までのように自由に工場や営業所を建てることができなくなると国外移転が増えることになり、数百万人の雇用が失われるとの指摘もあります。

 今回のBrexit問題は日本でもかなり注目されていますが、日本企業がイギリスにかなり進出していることが関係していると思います。2014年10月のデータですが、イギリスに拠点をおく日系企業は1084社あり、2015年の国際収支統計によると日本がイギリスに投資した金額はアメリカに次ぐ2番目の大きさです。3番目は中国ですが、今では中国以上にイギリスにお金を投資していることになります。

 イギリスには自動車や電機のメーカーが拠点を置いていますが、英語圏であるからなどの理由もあるでしょうが、一番の理由はアメリカのウォールストリートに匹敵する金融街シティがあるからではないでしょうか。イギリスの競争力の源泉ともいえる金融業ですが、今までのように域内での自由な営業ができなくなる可能性があります。

 イギリスへの投資のうちの3分の1が金融・保険業であることから、日本にも影響がでるかもしれません。イギリスに拠点を設ければ、EUに加盟している他の27ヶ国でも許認可なく自由にビジネスを展開できましたが、こうしたメリットを失う可能性があります。

 さらにイギリスには大きな経済問題がありまして、それがスコットランドの独立問題です。2015年9月に独立の是非を問う住民投票を実施しましたが、独立反対票がかろうじて過半数を上回ったという経緯があります。北海油田の石油・天然ガスがあれば、経済的にも自立できるというのが独立派の主張です。

 スコットランドが独立した場合にEUに加盟することができるのかは、住民投票の際にも議論の争点となりました。スコットランドがEUに加盟できるとすれば、イギリスがEUを離脱すると同時にスコットランドが独立するかもしれません。スコットランドのGDPはイギリス全体のGDPの約9%を占めているので、これは経済的にかなりのダメージになると考えられます。

今後どうなるのか

 仮に国民投票の結果が離脱だった場合を考えてみましょう。離脱と決まったと同時に製造拠点がEU域内に移転するかどうかはわかりませんが、関税や各種手続きが復活すると思われますので、EUに加盟している各国と新たに貿易協定などを結ぶ動きになると思います。これはスイスやノルウェーのように自由貿易協定によって関税面でメリットを受けている前例があるので、不可能ではありません。ただし、EUと貿易協定を結んでいるカナダですが、協定締結まで7年かかっています。

 イギリス政府が離脱の意向を表明してから2年以内にEU法の効力適用が停止します。英国を除くEU首脳による多数決で離脱が認められれば、2年経たずに効力が停止します。ただし、英国を除くEU首脳が全会一致で効力の停止の延期に合意すると、停止が延期されます。EU法が停止されない間はEU諸国との協議が続くことになります。

 ちなみに、1980年代にグリーンランドがEUの前身であるEC(欧州共同体)を離脱しましたが、協議に3年近くの年月がかかっています。EU諸国の経済が芳しくないなか、多額の拠出金を支払っているイギリスに対する離脱にすんなりと合意してくれるのかは非常に不透明です。

 離脱の協議と貿易協定の締結までに時間がかかる可能性は高く、これはイギリス経済にとってマイナス要因になります。当然イギリスへの投資が手控えられるので、ポンドにとっても下押し圧力がかかると思われます。米CNNテレビによれば、離脱した場合にはロンドン株式市場が24%、欧州全体で20%も株価が下落すると予想されています。
欧州株20%下落も=英EU離脱なら-投資助言会社

 個人的には離脱反対の投票結果が出るまではポンドのロングポジションはとりたくないですね。口座を開いているFX会社からもメールがきていましたが、投票結果の発表時間の前後にはポンドの値動きが荒れることが予想されます。ポジションをとる際には十分注意するようにしてください。

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