サミット後の財政出動が円相場に与える影響を考える

 8年ぶりに日本で開催された伊勢志摩サミットが、すべての日程を終え閉幕しました。今回のG7では失速する世界経済を牽引するための機動的な財政戦略や構造改革への取り組み強化が重点的に話し合われましたが、これが財政出動や消費増税といったこの先行われる選挙に関連することから、選挙戦を見すえた報道が多かったように思います。

 議論のなかで「世界経済はリーマンショック級の経済危機」という表現は行き過ぎではないかとのクレームも入ったようですが、新興国のGDPや輸入伸び率がリーマンショック以降で最も低い水準に陥っていること、新興国への資金流入が2015年に初めてマイナスに転じたこと、エネルギー・食材・素材などの商品価格がリーマンショック前後の下落幅と同じであることなどの複数の資料を提出し、最終的に機動的な財政出動と構造改革を加速することで先進7ヶ国(G7)首脳が足並みをそろえたようです。
伊勢志摩サミット:世界経済「クライシス」に異論も、表現調整へ
安倍晋三首相「リーマン前と似てる」 消費税再増税の先送りを示唆

 財政出動の必要性についてはG7で一致することができましたが、いつ・どのくらいの規模で行うのかは各国の事情に委ねるとされています。現に、フランスのオランド大統領などはサミット後の記者会見で「うちは経済危機じゃないから」とコメントしています。
経済危機にはない、2008年は真の危機だった=フランス大統領
IMF専務理事「危機の中にいるわけではない」

 このあたりはサミット開幕前から指摘されていたとおりですね。特に、憲法に財政均衡が記されているドイツと財政赤字削減を公約に当選したイギリスのキャメロン首相などは財政出動に否定的な意見であったと思われます。ちなみに、フランスも均衡財政を義務付ける憲法改正を2011年に可決しています。

 アウトバーンと言えば速度無制限で有名なドイツの高速道路ですが、憲法で財政均衡をうたっているために整備が進まず、一部で時速60キロに制限速度が設定されたり、3.5トン以上の車両の通行を禁止したりしているようです。

 イギリスにいたってはさらに過酷で、財政赤字を削減するために社会保障費をかなり縮小したようで、キャメロン首相宛てに遺書を書いて自殺する騒ぎまで起こっているようです。頭蓋骨の半分を失って半身麻痺の人に対して就労可能と裁定するほどの厳しさだそうで、経常収支が黒字のドイツはともかくとしてこれらの国が財政出動するのはたしかに無理があるのかもしれません。
財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ

 結局、財政出動できそうな国は日本ぐらいしかなく、財政出動と消費増税の延期に対するお墨付きをG7各国から得たような形になったのかなと思います。

円相場への影響は?

 長引くデフレ不況からの脱却を期待されている財政出動ですが、これがどれほど為替に影響を与えるのか。内閣府が行った試算によれば、2015年の10-12月期の需給ギャップは8兆円程度であると指摘されています。この需給ギャップ解消のために期待されている財政出動は10兆円規模のようです。
増税・補正規模・解散、強まる政策不透明感 日本株は方向性欠く

 民間の資金需要がないことを解消するために政府が公共事業などにより需要を作り出すわけですが、この場合の原資は建設国債や赤字国債などを発行して行うことになります。10兆円の財政出動を行うのであれば円が10兆円増えることになり、これは当然円安要因となります。

 ではどのくらい円安に振れるのかに関心が移るかと思いますが、日銀の国債の買い取り規模と比較してみましょう。2012年12月からアベノミクスがはじまり、非伝統的な金融政策として日銀は国債の買い入れを続けてきました。日銀が民間銀行から国債を買い入れると市中に円が流通することになるので、これは金融緩和政策です。結果は皆さんご存知のとおり。

5g8eq8f1e1

 おおよそ80円から120円と大幅な円安に振れており、現在日銀の国債保有額は300兆円を超えています。一度にまとめて買い入れたのではありませんが、300兆円規模の金融緩和を行うとこれだけの効果があったわけです。そう考えれば、10兆円規模の財政出動が為替相場に与える影響はそれほど大きくはなさそうだと言えます。

 政府の財政政策がどのような形になるのかはわかりませんが、一般的には公共事業を行うことが多いと思いますので、公共事業に関連する銘柄を物色したほうがFXをやるより利益が見込めるかと思います。また、財政出動がうまくいきデフレが解消されれば国内企業の業績が可能性があるので、景気敏感株などを今のうちから物色しておくのもよいかもしれません。

まとめ

 今、ドル円相場に大きく影響を与えそうなのはアメリカの利上げの方だと思います。肝心の利上げですが、直近のアメリカ経済指標が改善されてきたことで、そろそろ行われるのではないかとの意見がメディアでは主流のように思います。各連銀総裁のコメントにもそのような意見が増えてきており、アメリカ国内での利上げ圧力はかなり強いのではないかと推測されます。

 反面、ドルが基軸通貨として世界の貿易決済などで利用されていることや、金融緩和によりだぶついたドル資金が新興国に流入していることなど、アメリカの都合だけでおいそれと利上げできないという事情もあります。特に、今回のサミットにおいて世界需要の縮小を散々提示されていますので、新興国の経済状況を悪化させかねない今の段階での利上げはハードルが高いのではと思っています。

 アメリカ次第ではありますが、注視していきたいと思います。

スポンサーリンク

コメント

CAPTCHA


ひろです。
お酒ばっかり飲んでいるけれど、私はげんきです。

カテゴリー

【免責事項】
当ウェブサイトは細心の注意を払ってコンテンツを作成いますが、正確性および安全性に対して一切の保証を与えるものではないことに注意してください。また特定の銘柄や投資対象、運用手法を推奨するものではありません。記載された情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当ウェブサイトは一切の責任を負わないことをご了承下さい。資産運用・投資に関する決定はお客様ご自身の判断でお願いいたします。

ページの先頭へ