パナマショックに対して日本の報道は冷淡なようだけど?

 パナマの法律事務所から大量の内部文書が流出し、同国のタックスヘイブン(租税回避地)を利用した金融取引に世界各国の政治化や著名人が関与していたことが明らかになったことから、色んな国の体制が揺らぐ可能性があるのではないかとお祭り騒ぎになっております。EU加盟国の首相クラスの多くが脱税に関わっていたことで、財政危機で税率を引き上げられてきた一般の国民からはハンパない反発を受けることは間違いないかと思われます。
「パナマ文書」スキャンダル、世界各国で調査開始
エドワード・スノーデン氏「史上最大のリークだ」。世界の大富豪たちの金融取引を記した「パナマ文書」が流出
東京為替:東京株は350円安、ドルは110円78銭まで続落

 リーマンショック級の金融不安が来るのかとも心配されており、昨日の5日の東京株式市場は例によってリスク回避の円買いが進んだことから350円安の大幅下落となり、16000円を割り込んでしまいました。流出文書を元に各国の記者で作る団体ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)によって作成された「パナマ文書」には、ロシアのプーチン大統領をはじめ、各国の政界・財界のそうそうたる重鎮が名を連ねています。

 フォーブズ誌に載った世界の大金持ち29人の億万長者、アイスランドのグンロイグソン元首相、キャメロン英首相の父親(故人)、パキスタンの首相、サウジ王、アゼルバイジャンの大統領の子供たち、ジャッキー・チェン、FCバルセロナのサッカー選手リオネル・メッシ、メキシコの麻薬密売人、イスラム・テロリスト、アメリカ政府がブラックリストに載せている北朝鮮とのつながりのある個人や会社などなど。

 また、欧州各国の多くの銀行が、タックスヘイブンのペーパーカンパニーを利用した税逃れを指南したのではないかとの疑惑が持ち上がり、各国の当局が低税率な国外のオフショア取引の実態解明のために調査に乗り出したと報じられています。スウェーデン、スイス、オランダ、スペイン、オーストリアなどの名前が挙がっています。
パナマ文書が欧州の銀行に打撃 顧客の資産隠し援助を当局が調査

 なかでも、中国の習近平国家主席の親族がタックスヘイブンのペーパーカンパニーのオーナーであることが判明したことで、中国政府はインターネット上の関係する情報を次々と削除する対応に追われているようです。習近平氏は政治家や官僚の腐敗撲滅に取り組んできた経緯があるので、対抗勢力が息を吹き返すのではないかと指摘されています。
習主席を襲った「パナマ文書」スキャンダル – 澁谷司
メッシは習近平の義兄? 「パナマ文書」規制も中国ネット上に集まる皮肉

タックスヘイブンのなにが悪いのか?

 タックスヘイブンとは、自国の産業をもたない極めて小さな国々が極端に低い税率にすることで、海外の富裕層や企業から資産を集めて国家運営を行うことを言います。例えば、日本の場合だと利益の40%に税金がかかるものが、租税回避地に口座やペーパーカンパニーを作ってお金を入れておけば、はるかに低い税金を支払うだけで済むので税率の差額分のお金が浮くことになります。

 タックスヘイブンのなにが問題であるかといえば、本来なら税収となる富裕層の資産が海外に流出することです。大企業や富裕層などの資金が自国からタックスヘイブンに流出すれば、税収は減ってしまいます。これを防ぐために先進国では所得税率や法人税率の引き下げをしなければならなくなりました。

 また、かつては守秘義務規定により匿名性が高かったことから、テロ組織や反社会的勢力のマネーロンダリングに利用されることも多かったようです。近年では脱税やテロ活動に対抗するために、タックスヘイブン諸国に情報開示を強く求める傾向になってきています。かつては厳格な守秘義務で有名だったスイスの銀行も顧客情報を共有することに合意したりと変わってきているようですが、時刻の命運がかかっているタックスヘイブン諸国には情報開示を受け入れられないところもあるようです。
銀行の守秘義務の終焉、スイス国内で税の透明化を図る
スイス銀行界、顧客の守秘主義に変化 脱税対策で情報提供

 テロ組織や反社会的勢力のマネーロンダリングに使われたことから、ブラックなイメージのあるオフショア取引ですが、この節税方法は合法です。ただ、近年の経済失速により各国とも増税で税収を増やそうとしてきたことから、きちんと税金を払ってきた一般の国民からはブーイングがでるのは当たり前と言えましょう。

 2015年には、OECD(経済協力開発機構)とG20に加盟する40ヶ国あまりが、過度な節税策を防ぐ税制を全面導入することを決定しています。もちろん日本も含まれています。海外の低税率国で実体のない子会社に計上されている所得を本国の所得と合算して課税対象にするもので、不当な節税策に対する牽制として期待されているものです。今後はオフショア取引による課税逃れは減少していくものと思われます。
タックスヘイヴン対策税制

日本ではあまり報道されていない?

 ネット上では一部で「欧州がお祭り騒ぎになっているニュースなのに、なぜ日本では報道が少ないのか?」といった不満が出ているようです。今回流出したリストの中に電通が含まれていることから、緘口令が敷かれたのではないかといった憶測も飛び交っているようですが、上記のとおりすでに対策税制が導入されていることからそこまでの問題ではないと思われているのかもしれません。アメリカでも同じようです。
世界騒然の「パナマ文書」、なぜ日本のメディアは本格的に報じないのか?

 菅義偉官房長官も6日午前の記者会見おいて「世界全体で租税回避について連携しているので、軽はずみなコメントは控えたい」と述べています。守秘義務を漏らさないことで有名だったスイスが情報開示に応じたこともあり、今回の騒動によって他のタックスヘイブン諸国も情報開示を受けざるを得なくなるのかもしれません。
菅官房長官「軽はずみなコメント控える」

 「俺たちは税金をちゃんと払ってきたのにズルをしやがって」と言いたくなる気持ちはよくわかるんですけどね。今後はきちんと不当な節税対策を取り締まってもらいたいと思います。

2016年4月10日 追記

 記事執筆時点で、パナマ文書に日本の企業が記載されているかどうかはわからず、ネットで出回っている企業リストはICIJが2013年に公開したオフショアリークスの情報をもとに作られたものだったようです。訂正してお詫びします。
「パナマ文書」にJALや電通が載っているという情報はデマ
なぜ日本はパナマ文書を調査しないのかと怒る人に

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