タックスヘイブン問題を解決することの難しさ

 パナマの法律事務所から内部流出したデータをもとにしたパナマ文書によって、経済失速により増税を主導してきた各国の主導者が租税回避地の法人を利用して課税逃れをしていたのではないか、との批難が世界中で沸き起こっています。

 特に官僚の腐敗撲滅運動を強力に推し進めてきたことで庶民から人気を勝ち取ってきた習近平国家主席の親族がリストに挙がっていることから、中国国内では目でライの報道やネットの規制が強化されている模様です。NHKのニュースが中国で見られるようですが、この問題を放送した数分間ニュースが中断され画面が真っ暗になる有様のようです。
中国、報道とネット規制 「パナマ文書」疑惑

 同様に、タックスヘイブンへの取り締まり強化を推進してきたイギリスのキャメロン首相ですが、故人である父親にオフショア取引を行った疑惑が持ち上がったことで、イギリス国内では批判が噴出しているようです。きちんと税金を納めたことを証明するために、来週以降に納税申告所を公表すると英BBCのインタビューに答えましたが、本人も過去にオフショア取引の事実があるのに本当にできるんでしょうか。
【パナマ文書】キャメロン英首相、父のオフショア信託の株保有認める

一応、合法ではある

 匿名性が高いことで犯罪収益のマネーロンダリングとして利用されてもきたタックスヘイブンですが、これは税金を納めるとか以前に犯罪そのものですので、なんちゃって経済ブログとしましてはタックスヘイブンと税収について的を絞って考えたいと思います。

 今回のような大騒ぎもなると、「なんだ、悪いことしやがったのか。逮捕されやがれ」と言い出す人がいそうですが、タックスヘイブンを利用した租税回避は違法ではありません。ただ、正直に税金を払ってきた人が損をするということ、本来なら税収としてカウントされるものがなくなってしまうことなどから、道義的に問題があるというのは間違いないです。

 タックスヘイブンとは経済規模が小さく自国産業のない小国が、税率を極端に低くすることで海外の企業を誘致して自国経済を運営しようとするものです。今回はパナマの法律事務所から情報が流出しましたが、他にもタックスヘイブンを行っている国は数多くあります。

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 日本銀行の調査によれば、2012年末にイギリス領ケイマン諸島への日本の投資残高が55兆円だったそうで、2012年の税収である42兆円と比べるとその金額の大きさがわかるかと思います。これはアメリカの投資残高に次ぐ2番目の金額だそうです。ケイマン諸島だけでこの金額です。
タックスヘイブン(租税回避地)ケイマン諸島 日本の投資残高55兆円 多国籍企業11年間で約3倍

 今回のパナマ文書では日本企業の名前も挙がっており、バンダイ、大日本印刷、ドワンゴ、オリックスといったよく名前を聞く企業も含まれています。海外での営業活動が多い三菱商事や丸紅などはともかくとして、税金を投入されて経営再建をしてきたJALなどが批判をされるのは無理もないと思います。

2016年4月10日 追記

 記事執筆時点で、パナマ文書に日本の企業が記載されているかどうかはわからず、ネットで出回っている企業リストはICIJが2013年に公開したオフショアリークスの情報をもとに作られたものだったようです。訂正してお詫びします。
「パナマ文書」にJALや電通が載っているという情報はデマ
なぜ日本はパナマ文書を調査しないのかと怒る人に

 5日の記者会見でアメリカのオバマ大統領が「金持ちと大企業だけが利用できる税の抜け穴がある。中流家庭はそれを使えず、負担を強いられている」と発言したそうですが、一円の買い物に頭を悩ます庶民からすれば消費税増税の前にやることあるだろ!言いたくもなりますよね。
パナマ文書「大きな問題」 オバマ大統領、税逃れを批判

日本はまじめに考えているの?

 日本での報道が欧州などに比べて少ないことから、パナマ文書にのっていた電通が圧力でもかけたんじゃないかなどという陰謀論も飛び交っています。特に、菅義偉官房長官は6日の記者会見で「軽はずみなコメント控える」と発言したことで、まじめに調べろという批判を受けているようです。
菅官房長官「軽はずみなコメント控える」

 ただ、これは日本の場合、違法に得られた情報は立件に使うことができないからではないかと指摘されており、以前からアメリカと協力してこの問題に取り組んできたことと合わせて考えても、日本の捜査当局が真剣に考えていないということではないかと思います。
中国減速リスク議論 課税逃れ防止協議 財務相・中央銀行総裁会議

今後どうなるか

 なんちゃって経済ブログの予想であると前置きしますが、2015年にOECDとG20に加盟する40ヶ国あまりがタックスヘイブン対策税制を導入することに合意したんですが、これがタックスヘイブン撲滅に結びつくのかどうかは不透明です。

 今回はパナマ文書により資金の流れが明確になりましたが、タックスヘイブンでの収益がオフショア取引であることを立証しなければ、本国での収益であるとは見なせないことになります。そのためには租税回避地に対して情報開示を求めなければならないのですが、タックスヘイブン諸国がすんなりと応じるかは微妙なところです。

 先日の記事で厳格な守秘義務で有名だったスイスが情報開示に応じたニュースを紹介しましたが、スイスのように経済規模が大きく他の産業による収入を見込めるような国ならともかく、タックスヘイブンにより海外企業を呼び込むことで経済が成り立っているような小国の場合には死活問題になってしまいます。現にシンガポールはアメリカからの情報開示を拒否しています。
米のタックスヘイブン潰し UBSシンガポールに口座情報要求

 その他にも、いくつかの条件を満たせばタックスヘイブンの対象から除外されてしまうので、今までほどの課税逃れはできないまでも、なんらかの手段によって条件を満たすことで、本来得られるはずの税収を取り逃がす可能性もあるかもしれません。
外国法人所得に対する日本の課税(タックスヘイブン対策税制)

 究極は本社をタックスヘイブン諸国に移しちゃう。特に多国籍企業であれば世界中に支店があるわけですから、一番税率の低い国の支店を本店にしてしまうという荒業を使うこともできます。「無国籍企業」とか「根無し草企業」とか表現されてますね。

 前に書いた記事でタックスヘイブン対策税制が導入されるからこれからは大丈夫でしょう、なんてお気楽なこと書いてしまいましたが、ちょっと調べてみると結構難しい問題なんですね。日本のように法人税収が10兆円規模にもなるとおいそれと税率を引き下げるのも難しいと思います。やはり鍵はタックスヘイブン諸国の情報開示に懸かっているのかもしれません。

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