サウジアラビアがイラン抜きの増産凍結反対に固執した理由

 17日にカタールの首都ドーハにおいて、OPEC(石油輸出国機構)加盟国や非加盟の18カ国が参加した会合が行われ、原油価格の押し上げを狙って増産を凍結する話し合いが行われましたが、サウジアラビアがイラン抜きでの増産凍結に反対したことから合意には至りませんでした。欧米諸国からの経済制裁を解除されたばかりのイランが、増産凍結に合意することは難しかったようです。
主要産油国、増産凍結の見送り決定
産油国会合、増産凍結合意できず OPEC総会へ持ち越し

 これを受けて、東京商品取引所やニューヨーク原油市場で原油の先物価格が大幅に下落、東京では価格の急落による取引の混乱を防ぐためのサーキットブレーカーにより売買が一時中断しました。今回合意に至らなかったことで失望感が出ているようです。

ezlm1heft1

 時間が前後しますが、アメリカの原油在庫が予想外に減少したことと、「イランに関係なく、ドーハ合意の希望はある」と表明したロシア政府やOPEC高官のコメントにより、各国の報道機関は楽観的な見通しを示し、直近の価格下支え期待による原油の買いも強いものでした。
NY原油(6日):大幅続伸、米在庫が86年ぶり高水準から減少
NY商品 原油が急反発 需給引き締まりの観測 ドル安も支え、金は続伸
イラン抜きで実施も=原油増産凍結
主要産油国のドーハ会合、10月まで増産凍結で合意へ=草案
【市況】NY原油:続伸で42.17ドル、ロシアとサウジの増産凍結合意報道で買い
原油50ドル超えの可能性、増産凍結で合意なら=バンカメ・メリル

 米バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチにおいては近い将来50ドルを越えるとまで予想し、これらの期待が裏切られたが故に今回の先物価格の急落を招いた訳ですが、なぜサウジアラビアは強硬姿勢を崩さなかったのか。

サウジアラビアとイランの対立の歴史

 今年の1月3日、サウジアラビアとイランが国交を断絶しました。原因となったのは、サウジアラビアがシーア派指導者ニムル師を処刑したことと、それに憤ったイラン市民がサウジ大使館を襲撃したことによると言われていますが、ふたつの国は以前から対立関係にありました。

 1971年にイギリスが湾岸地域から撤退するまで同地域はイギリスによって管理されていましたが、ソ連が親ソ的なイラクを足がかりとして湾岸地域に進出することを防ぐために、アメリカはともに親米政権であったサウジアラビアとイランを二つの柱とする「二柱政策」をとります。

 このときまでは宗派上の争いも表面化していなかったのですが、その後サウジがシーア派を異端とみなすスンニ派「サラフィー主義」を守護者に任じ始めたことと、1979年にイランでの革命を契機にムスリムの解放を目指すイスラム共和国がイランで誕生したことによって、両国の関係が悪化していくことになります。

 サダム・フセインのクウェート侵攻によって一時的に敵対関係は棚上げされたのですが、2003年のイラク戦争の結果フセイン政権が崩壊し、イランがイラク国内で多数を占めるシーア派を利用して影響力を強めたため、双方がより公然と対立するようになりました。

 近年でも、シリア情勢やイスラム国(IS)への対応でサウジは欧米諸国と足並みをそろえていますが、イランは以前から反米で意見の一致するロシアを支持しており、お互いにシリア国内のスンニ派・シーア派を支援することで対立を続けています。
サウジアラビアとイランはなぜ対立するのか 村上拓哉 / 国際関係論
サウジ=イラン関係は悪化の一途たどる恐れ
サウジとイランの断絶がもつ意味と影響-中東をめぐるサウジの巻き返し
サウジは同盟国ではない? なぜアメリカは距離を置くのか…存在感を増していくイラン
サウジがイランと断交 中東を揺るがしかねない対立の歴史

中東から距離を置くアメリカ

 原油価格下落による財政収支の悪化だけでイランの増産凍結の欠席を許せない訳ではなく、オバマ政権になりアメリカが中東への関与を低下させたことで、以前であればアメリカ+サウジアラビア対イランであったものが、サウジアラビアのみで対応せざるを得ない状況になってきており、中東での影響力を拡大する上で自国だけが増産凍結を飲むことはできなかったと考えられます。

 国交断絶まで関係が悪化したことで、中東地域で再び軍事衝突が起こることが懸念されていますが、サウジとイランの間には陸上国境がなく、相手国の領土に地上部隊を送り込むような空挺・揚陸能力も保有していないため、ペルシア湾上で航空戦力、海洋戦力による衝突が予想されています。

 これについても、戦場となるペルシア湾の油田施設に壊滅的な打撃が発生することは避けられないため、実際に戦闘が起きる可能性は低いのではないかと指摘されてます。これは両国の軍隊に示威的な行動などがほとんど見られず、オイルショック時のように原油価格が高騰する動きも見られないからです。

 日本は原油を中東から約80%輸入しており、原油価格に中東情勢が大きな影響力をもちます。アメリカが原油輸出を再開したことでリスク分散ができるとはいえ、大きな紛争に発展しないことを願います。

スポンサーリンク

コメント

CAPTCHA


ひろです。
お酒ばっかり飲んでいるけれど、私はげんきです。

カテゴリー

【免責事項】
当ウェブサイトは細心の注意を払ってコンテンツを作成いますが、正確性および安全性に対して一切の保証を与えるものではないことに注意してください。また特定の銘柄や投資対象、運用手法を推奨するものではありません。記載された情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当ウェブサイトは一切の責任を負わないことをご了承下さい。資産運用・投資に関する決定はお客様ご自身の判断でお願いいたします。

ページの先頭へ