吉野家の営業利益を圧迫したもの

 4月11日に吉野家ホールディングス(9861)が2016年2月期の決算を発表しましたが、。売上高は前年比で伸びたものの、本業の儲けを示す営業利益が54.1%減の16億1300万円と苦戦をしています。牛肉価格の高騰が理由であるとしています。
「すき家」「松屋」は増収増益 一人負け「吉野家」は豚丼で巻き返しなるか?

 ライバルであるすき家(ゼンショーホールディングス(7550))と松屋(松屋フーズ(9887))はともに5月12日が決算発表日となっていますが、こちらは増収増益を予想しているとのことです。なんとなく気になったので少し牛丼業界と牛肉価格について調べてみました。あ、ちなみに私は松屋派でございます。

各社の牛肉輸入先

 以前アメリカでBSE問題が発生したときに、吉野家を除く2社が仕入れ先をオーストラリアに切り替えたことを大々的に宣伝していた印象が強かったせいか、今では3社ともほぼアメリカからの輸入に頼っているのを見て、ちょっと意外に思いました。牧草飼育のオーストラリア牛は臭みが強いとも言われており、不評だったんでしょうか。

吉野家

 詳しい方ならよくご存じだと思いますが、吉野家は伝統的に北米産牛のショートプレートを使用しているのは有名な話です。一部国産牛肉を使用しているという不確かな情報をネット上で見つけましたが、公式ホームページにおいて国産牛の生産過程について言及がありますので、デマではないようです。割合までは確認できませんでしたが、各種ニュースから考えても牛肉の多くを北米からの輸入に頼っているとみて間違いないでしょう。
米国産牛肉の生産・流通と衛生管理体制

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すき家

 各国基準より厳しい「ゼンショ―基準」を設け、肥育農場や加工工場を現地監査することで安全を確保していることをアピールしています。こちらも割合は未確認。吉野家が米国産牛肉の使用を再開することに対し「責任を取れるのか」と批判していたようですが、今ではアメリカ産牛肉を使っております。
食の安全へのこだわり > 牛肉

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松屋

 一時期オーストラリア牛を前面に押し出していた松屋さんですが、今ではほとんど使用されていません。ひょっとしたらオーストラリア産だと思い込んでいたあの牛めしも、本当はアメリカ産だったのかもしれない。ちなみに、豚めしの豚肉はデンマーク産が主流の模様。
主な原材料の原産地について

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米国産ショートプレートの価格推移

 正直なところ、米国産ショートプレートといえば吉野家の代名詞のようになっていますが、他社の牛丼の原材料がどの部位なのか未確認であるものの、おおまかに牛丼価格を予測するのには参考になるかもということで、米国産ショートプレートの価格推移について考えてみたいと思います。独立行政法人 農畜産業振興機構の国内統計資料に北米産牛肉の価格動向がエクセルシートで入手できますのでこれをダウンロード。2016年は3ヶ月だけわかっているので、平均値でグラフにしています。
国内統計資料

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 2012年と2014年で価格が高騰しているのが見てとれると思います。農畜産業振興機構によれば、2012年はアメリカで干ばつ、2014年はオーストラリアで干ばつが発生したことで、牛肉の受給が逼迫したことが原因であるとされています。
◆米 国◆ 2012年の輸出量は牛肉生産量の低下により減少 2012年の輸出量は前年比12%減
◆米 国◆ 牛肉生産量が減少する中、輸出量・輸入量は増加 2014年の第2四半期の生産量は前年同期比4.8%減

 また、家畜用の飼料としてトウモロコシを与えるため、トウモロコシの値段が肥育用牛の価格に影響を及ぼすようです。2014年までしか確認できませんでしたが、CMEのトウモロコシの先物チャートを見ると2014年に価格が高騰していることがわかります。

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 また、外食産業は内需関連株として有名ですが、原材料を輸入に頼っていることから為替にも影響を受けるわけです。ここ最近のショートプレート価格の落ち着きは、世界経済の失速によりリスク回避目的で円が高値で推移していることにも関係があるのかもしれません。

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 2014年ごろに牛丼各社が値上げをしたことを覚えている方も多いかと思いますが、牛丼価格および牛丼各社の業績はショートプレート価格をはじめ、トウモロコシや円相場の影響を受けるということがわかったかと思います。
円安で打撃を受ける吉野家、すき家…なぜ円安になると牛肉が高騰するのか?
吉野家も大幅値上げ 輸入牛高騰で牛丼が“高値の花”になる
「牛肉価格の高騰」から見る外食チェーンの今後

あれ?牛肉価格はそんなに高くないのでは・・・

 今回の決算で営業利益を悪化させてしまった吉野家ですが、冒頭のニュースでは牛肉価格の高騰をその理由としていましたが、最近のショートプレートの価格を見る限り収益を圧迫するほどの値上がりをみせているとは思えないような気がします。

 これには理由があって、過去に原材料費の高騰により牛丼価格を上げざるを得なかったときに、その対策として値上がりする前に多めに牛肉を仕入れておき、在庫を切り崩して使うという仕入れ方法が原因ではないかと予測します。吉野家の社長である河村泰貴氏のインタビューでも、牛肉の在庫ストックについて言及があります。高いときに仕入れちゃったんですかね。
吉野家社長「牛丼値上げのすべてを話そう」

 もうひとつ営業利益の圧迫要因として、人件費の高騰が挙げられるかと思います。販管費が前年同期比で約42憶円増えていますが、内訳を見てみると前年同期比で給料手当が4憶2600万、パート費が6憶7900万とそれぞれ増加しています。

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 先日、リクルートがアルバイト・パートの賃金上昇について調査結果を発表していましたが、外食産業にとっては収益を悪化させる要因となっているのかも?
日本経済に一筋の光、アルバイト・パートの賃金上昇-売り手市場で

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 販管費の増加要因としては家賃が5憶円ほど増えていることも挙げられます。アベノミクスやマイナス金利政策に対して、野党をはじめ各報道機関は失敗していると批判していますが、地味に効果が出てきているのかもしれません。

 今回、牛肉のショートプレート価格だけでかなりざっくり吉野家の決算を分析してみましたが、すき家はジョリーパスタやはま寿司ブランドをはじめとした牛丼以外の収益源をもっており、それは松屋にも同様のことが言えます。

 ただ、各社とも牛丼の売り上げを収益の一部としているのは間違いないので、ある程度は吉野家と同じ傾向になる可能性は高いと言えます。アベノミクスの影響ともあわせて、5月12日の決算の参考となれば幸いです。

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